話はいったん歯周組織から離れる。
細胞が血糖(ブドウ糖)を利用するには、細胞内に取り込まなくてはならない。
血糖は細胞内にしみこんでいくわけではないので、細胞膜を通して輸送してやる必要がある。
これを、能動輸送という。
細胞膜内にはグルコトランスポーター4(GLUT4)というたんぱく質があり、インスリンの存在を受けて血糖を取り込む。
GLUT4こそが、細胞が持つ血糖の輸送機関である。
血糖が血液中から取り込まれた結果、血糖値が低下する。
これがインスリンが血糖値を下げるメカニズム。
ところが、TNF-αはGLUT4タンパクの細胞膜での生合成を阻害してしまう。
つまり、インスリンがあっても細胞は血糖を取り込むことができない。
結果として、血液中の血糖値は上昇する。
これが、インスリン抵抗性の発生機序。
歯周病が糖尿病を悪化させる根拠でもある。
そしてTNF-αをつくるのはマクロファージだけではない。
同じ免疫細胞であるT細胞、単球、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)もTNF-αを産生する。
さらに肥満すると横紋筋の筋肉細胞や脂肪細胞にTLR4の発現が亢進し、TNF-αを分泌する。
実は体にとっては肥満は一種の炎症状態とみなされる。
肥大した脂肪細胞には多数のマクロファージが浸潤し、TNF-αを盛んに分泌する。
TLR4は刺激により、筋肉細胞や脂肪細胞にTNF-αを産生させる。
(TLR4はリポ多糖のレセプターであるが、他の因子並びに経路によりTNF-αを産生している可能性もあり、詳細は不明である。)
そして筋肉細胞や脂肪細胞は自らのつくったTNF-αにより、GLUT4の生合成を阻害する。
肥満が高血糖を呼び、糖尿病を進行させる。
これが今問題になっているメタボリックシンドロームの機序。
同時に、これらの細胞がつくったTNF-αが歯周組織で歯周病を進行させる。
糖尿病と歯周病、TNF-αという共通のサイトカインを通して、二つの疾患が共に悪化する。
糖尿病が悪化すれば歯周病も悪化し、歯周病が悪化すれば糖尿病も悪化する。
負のスパイラルといってよい。
少なくともどちらかの疾患を改善することで、もう一方の疾患も悪化を抑えられる。
口腔内とて全身の一部、たかが歯周病とあなどらず、口腔衛生を心掛けてほしい。
糖尿病と歯科 完